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ハンディ堆積・地層実験 [地学実験]

カードケースに水と大きさの異なる砂を入れて,地層が堆積する様子を観察します。何回も繰り返すことができ,しかもやるたびに違った模様(地層)が出来ます。様々な色の砂を組み合わせて使うと,インテリアにもなります。

1.用具
A6・B6・B7サイズカードケース(1枚),砂(色と大きさが異なるもの2〜3種類),溝付きゴム(断面がU字型をしたロープ状のもの),水(適量),穴埋め補修用防水パテ(テープ状のもの,適量),シリコーン系防水充塡材(適量),台所用洗剤(適量)

2.作り方
【準備】
①砂は,手芸・工芸店で売っているカラーサンドをふるいにかけて,色ごとに異なる大きさに揃えるときれいで見やすい。砂のサイズを細かく分けるには専用のふるいが必要になるし,時間もかかる。ペットショプで売っている水槽の底に敷く砂は,色や大きさが様々なものがあるので,これを使うと便利。ただし,カードケースの隙間より粒が小さいものを選ぶこと。
0.05mm位の大きさの粒を入れると,きれいな筋模様が出来るが,これだけ細かい粒がそろっている砂は手に入れにくい。そこで,瓦やレンガをハンマーで細かく砕き,更に乳鉢ですりつぶすと,ちょうど良い大きさの粒を作ることが出来る。
用意した砂は,水が濁らなくなるまで水洗いしておく。
②テープ状の防水パテは,幅3〜4mm,カードケースの口より1cm短い長さに切っておく。
③溝付きゴムは,カードケースの幅と同じ長さに切り,さらに端から1.5cmのところで2つに切る。
④カードケースに水を入れ,水漏れがないか確かめる。漏れている箇所は,充塡材で埋める。

【実験装置の制作】
①カードケースの1/3程度まで砂を入れ,台所用洗剤を一滴入れる。
②パテがカードケースの口から1mm程はみ出すようにして,口を塞ぐ。端の方は水が漏れやすいので,指でしっかり中まで押し込んでおく。カードケースの口の片方の端は,開けておく。
handytaiseki01.jpg
handytaiseki02.jpg

③長い方のゴムの溝を広げながら,カードケースの口をゴムの溝に差し込む。水漏れしないように,指でしっかり押さえる。
handytaiseki03.jpg
handytaiseki04.jpg
ゴム断面。この溝にカードケースの口を差し込む。

④開けてある口からカードケースに水を少し入れ,砂に充分しみこませる。
⑤カードケースに水がいっぱいになるまで入れ,その後,半分を捨てる(洗剤の濃度を調整するため)。
⑥カードケースの側面を押し,空気の層が5mmくらいになるように調整する。
⑦防水パテを,開けていた口に指で押し込んで塞ぎ,短い溝付きゴムをつける。
⑧水漏れがないか確認する。漏れている場合は,防水パテまたは充塡材で埋める。

【実験方法】
①砂をカードケースの片側に集め,ひっくり返して垂直に立てる。泡の隙間から砂が落ち,下に堆積する様子を観察する。
※1 砂がなかなか落ちてこないときは,カードケースを傾けたり,指で押したりすると落ち始める。
※2 カードケース内の空気が多すぎると,砂が落ちにくくなる。逆に少なすぎると,一気に下に落ちてしまう。このよう場合は,楊枝等でパテを取り除き,空気量を調節する。
②カードケースを垂直に立て,斜面の砂が流れるように傾ける。

[結果]

①地層の堆積
・大きい粒ほど速く沈降するので,堆積した地層は下から上に粒が小さくなっていきます。このような層を,級化層理と呼びます。
②砂が同じところへ落ちるとき,一定の傾斜で斜面を形成します。この傾斜の角度を安息角と呼び,このようにして出来た斜面を崖錐斜面と呼びます。成層火山の断面を見ているようです。


③砂の落ちる場所が少しずつ移動していくと,堆積面(斜面)が前進しながら堆積し,ラミナ(葉理)という筋模様ができます。川や海で砂が運ばれるときに,このような模様が出来ます。


④よく見ると,ラミナのでき方には2通りあるようです。実験装置をゆっくり傾けて,斜面の砂だけが少しずつ崩れ落ちるようにすると,大きい粒が細かい粒の上を転がるように流れていきます。このとき層の上の方の粒が大きくなり,これを逆級化層理といいます。


⑤斜面の砂が一気に流れ落ちるように傾けると,細かい粒が水中に舞い上がってから堆積し,級化層理が作られます。タービダイトという,泥と砂が交互に積み重なった地層は,海底で地滑りが起きたときに,このようにして形成されると考えられています。

この実験は,信州大学理学部物質循環学科堆積研究室で開発されたものを参考にしました。
参考文献・URL:北沢俊幸・村越直美・川野幸朗「携帯堆積空間」で作る堆積構造,カードケースを使った堆積構造の観察-携帯堆積空間(堆積学研究第60号,2004)
http://science.shinshu-u.ac.jp/~shizen/2007/syoukai/kaisetu/b41.pdf

東北地方太平洋沖地震による津波堆積物(匝瑳市〜旭市) [巡検・露頭]

東日本大震災により被災された方々に,心よりお見舞い申し上げます。

津波は,海底から地表まで,及んだ範囲の様々なものを侵食・運搬して押し寄せます。津波によって運ばれてきたもの(津波堆積物)を,千葉県の津波被災地である匝瑳市〜旭市にかけて見てきました。

匝瑳市野手の海岸です。
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九十九里浜には,自転車専用道路が整備されています。その専用道路が砂で覆われ,10cm〜20cm位の石もあります。表面には,津波の流れでつくられたリップルマーク(カレントリップル)ができています。カレントリップルマークは,上流側が長く緩い傾斜,下流側が短く急傾斜をしており,形から流れの方向を知ることができます。このことから津波は,画像奥から手前に流れてきたことがわかります。

P4103526_匝瑳市野手.jpg
津波によってなぎ倒された草です。海から陸に向かって(画像では右から左)に倒れています。上部の草は直立していることから,そこまでは津波が達しなかったことがわかります。

あさひパークゴルフ場です。
P4103531_旭市パークゴルフ場.jpg
ゴルフ場の敷地も砂に覆われ,いたるところにリップルマークが見られます。

旭市野中の防風林です。すぐ近くに,野中川河口があります。
P4103535_旭市野中.jpg
左側が海です。この辺りは防風林が広がっていますが,津波は防風林を突き抜けてきたのでしょう。倒れた柵には,松の葉や枝が引っかかっています。

P4103544_旭市野中.jpg
防風林の中は,一見,変化がないようですが・・・。少し開けたところでは砂が積もっていて,草の葉が所々に見られます。掘ってみると,根を張っている土壌(茶色の部分)の上に,砂が5cmほど堆積しています。

旭市三川,海岸線から300〜400m,陸に入ったところです。
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キャベツ畑と,奥には水田が見えます。ここは,川を遡ってきた津波が溢れ出したところです。

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キャベツの葉の間にも,砂が詰まっています。

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川沿いの道路には,砂が10cmくらいの厚さで積もっています。画像左側が海です。リップルマークの右側が長くて傾斜が緩く,左側が急斜面になっていることから,陸から海に向けて水が流れたことがわかります。津波が引くときに堆積したものと考えられます。

P4103561_旭市三川.jpg
断面を見ると,左に傾斜したラミナ(黒いスジ模様)が見られます。ラミナ(葉理ともいいます)は,水の流れによって砂が堆積するときにつくられる模様で,その形から,流れの方向や速さを知ることができます。画像の場合は,右から左に水が流れたことを示します。つまり,海に向かって水が流れたことわかります。

P4103563_旭市三川.jpg
畑の上にも,海(画像左側)に向かって流れたことを示すリップルマーク(カレントリップル)が見られます。断面を見ると,下から,赤土(畑の土)→砂→泥→砂の順に堆積しています。
津波が海の砂を内陸まで運び,畑を覆いました。津波が押し寄せたあと,しばらく海水が溜まった状態があったのでしょう,砂の上の泥はその時(流れがない時)に積もりました。津波が引き始めた時,再び砂が流されてきて,リップルマークをつくりながら泥の上に積もったと思われます。

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畑の別の部分です。左側が海です。海(正確には川の氾濫場所でしょう)から陸へ向かうリップルマークの断面が良く分かります。砂層の下部には平行ラミナが見られることから,津波による水流が速かったことがわかります。その後,流速が遅くなり,リップルマークがつくられました。ここも,リップルマークを覆って薄い泥の層と,その上の薄い砂の層が見られます。一番上の砂がつくるリップルマークの向きは,不鮮明で方向がわかりません。

旭市でも被害の大きかった,下永井の海岸です。
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ここのリップルマークは,陸から海へ流れたことを示しています。波打ち際から70m〜100mの範囲に見られます。陸側には,高さ2m程の遊歩道兼堤防を挟んで道路があります。道路沿いの家屋が,大きな被害を受けていました。

P4103574_旭市下永井.jpg
断面には,平行ラミナが見られます。草の葉と防湿剤の袋が,埋まっています。草はここに生えていたもの(下の方に根が見えます)ですが,防腐剤は津波で被災した家から流れてきたものでしょうか?

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所々に,赤土のかたまりが落ちています。同じ様な赤土は,道路沿いの民家の庭にも見られます。

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砂の中にも,5mm程の赤土が見られます。市街地を襲った津波が引いて行くときに,民家の庭から運んできたのでしょうか。

※リップルマークやラミナについては,これ以前の記事をお読みください。
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ラミナ実験 [地学実験]

ここまで紹介してきた千葉県の露頭は,葉理(ラミナ)という堆積構造が比較的よく観察できるところです。ラミナは,砂が水流に流されて運搬・堆積したときにつくられます。地層の形成は,“下から上に堆積する”と表現されることが多いのですが,1枚の層のでき方を見ると,横(水平)方向に広がって形成されたことがわかります。砂がどのように運ばれるのか,調べてみましょう。


1.用具
500mlペットボトル(断面が四角いもの、1本)、2ℓペットボトル(1本)、
ろうと(1個)、砂(適量)、水(適量)、大型バット(1個、机上で行う場合)、
実験装置を載せる台(1個)、薬さじ(1本)、ゴム栓(1個)

2.実験方法
【実験装置の製作】
① ペットボトルの片面を、底近くのの5cm位を残して切り取る。
② 切り残した部分に、ろうとを挿す穴をあける。
③ 切り取った部分を使い、水を溜める壁を作る。高さは、ペットボトルの幅の2/3程度にする。
④ 水がもれないように防水パテを使い、壁をペットボトルに固定する。
ラミナ実験図.jpg 【実験】 ① ろうとをセットし、実験装置に薬さじ5杯程度の砂を壁によせて入れる。 ② 2ℓのペットボトルに入れた水をろうとに注ぐ。水量は、1分30秒〜2分でペットボトルが空になる位がちょうど良い。 ③ 砂が移動する様子を観察する。 ④ ペットボトルが空になる直前に、ペットボトルの口をゴム栓でふさぐ。 ⑤ 堆積した様子を観察する。 ⑥ ゴム栓を外して水を出し、薬さじを使って砂を壁の方に集める。 ⑦ 砂の量や水量を加減しながら、繰り返し実験を行う。 斜面を砂が滑り落ちて行く様子が分かります。動画の後半では,小さい砂粒が舞っています。砂粒は大きさや密度によって運ばれ方が違うので,同じ大きさ(密度)の粒は一緒に流されてきて積もります。これを繰り返すと,細かい縞模様のラミナがつくられます。 もっと大きい水路実験装置を使うと,リップルマークもできます。

千葉県の露頭〜袖ケ浦市高谷(下総層群清川層・上泉層) [巡検・露頭]

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画像中央から下に見える,貝化石を含んだ地層が上泉層で,三角州の斜面〜底面のやや深い海に堆積した地層です。上泉層の上に重なる地層が清川層で,氾濫原(河川が蛇行してつくられる川原)〜河口付近の浅海で形成されました。清川層は表面が崩れているためよく分かりませんが,画像左上に貝化石を含んだ地層が見られます。この露頭からは,堆積環境が変化していったことが読み取れます。二つの層の境界は約22万〜23万年前と推定され,古東京湾に堆積した地層です。

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上泉層中の,画像に向かって左に緩く傾斜したラミナと,ラミナにそって堆積した貝化石。三角州前面の斜面に堆積したものと考えられます。専門的な説明は省きますが(できませんが),ラミナや砂粒の変化を詳しく調べることで,同じ様に見える地層が全く異なる環境で堆積したということがわかります。

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地層中に,砂でできた棒の様なものが突き出ています。これは,海底に棲んでいた生物(おそらくゴカイの仲間)の巣穴の跡で,この様な生物の痕跡を示す化石を生痕化石と呼びます。生物が巣穴を掘ったり砂の中を動き回ると,堆積構造が消されてしまいます。これを生物攪乱といいます。

千葉県の露頭〜君津市市宿(上総層群市宿層) [巡検・露頭]

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君津・富津市内には,60万〜80万年前に堆積した市宿層という,粗粒の砂からなる地層が分布します。市宿層は,最も厚いところでは400mもあるといわれ,露頭の高さが100mを超えるところもあります。画像のダンプと比較して,露頭の大きさがわかるでしょう。ここは山砂を採取している場所で,首都圏の建材として使われています。

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層の厚さが数mに達する巨大なラミナが見られます。この様な巨大なラミナは,斜交層理と呼ばれ,強い水の流れによってつくられた事を示します。また,ラミナが傾斜している方向が同じ(北〜北東)ことから,常に同じ方向に流れていたことが分かります。

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画像では右から左に水が流れ,ラミナが形成されたました。水流によって砂が運搬されるときは,この様な斜面をつくりながら移動します。水底を転がってきた砂が斜面を滑り落ちて,少しずつ砂が積もってできた模様(堆積構造)がラミナです。ラミナをつくりながら斜面が下流に向けて伸びることで,砂の層がつくられます。砂の層は降り積るのでなく,流されて積もります。

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砂層中には,ところどころに厚さ10〜20cmの泥の層が見られます。泥層は水中に舞っていた細かい粒子が,水の流れがないときにゆっくりと降り積ってできます。泥層は,水の流れが止まった時期が何度かあったことを示します。この泥層中には,クモヒトデの化石が見られます。

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よく見ると,ラミナが下に凸の形に湾曲しています。この様なラミナを,トラフ型といい,水流は地層断面に対して直交する方向に流れていました。トラフ型のラミナができる時,水底にはカレントリップルがつくられます。ダンプの大きさから,ラミナの大きさがわかるでしょう。

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市宿層は,どのような場所に堆積したのでしょうか。粗粒砂が同じ方向の巨大ラミナをつくることから,一定方向の強い流れがあったことがわかります。また,分厚い地層は深い海底でなければつくられません。海峡には,サンドウェーブと呼ばれる巨大な砂丘の様な砂の塊が,堆積・移動していることが知られています。これらのことから,市宿層は海流(黒潮)が入り込む海峡に堆積した,サンドウェーブの地層であると考えられます。

千葉県の露頭〜銚子市屏風ヶ浦(名洗層・飯岡層・香取層) [巡検・露頭]

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屏風ヶ浦は,太平洋の激しい波浪によって削られた断崖絶壁が約9Kmも続き,「東洋のドーバー」とも呼ばれています。波に侵食されてできた崖を,海食崖といいます。防波堤ができる前は,侵食により年5〜6mも崖が後退したといわれています。画像は屏風ヶ浦の東端,銚子マリーナの近くで遊歩道が整備されていますが,露頭に近づくことはできません。

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屏風ヶ浦では下から順に,砂質の名洗層(500万〜200万年前)・シルト質の飯岡層(200万〜70万年前)・砂質の香取層(10数万年前)・関東ローム層が見られます。地殻変動の激しい日本列島で,ほぼ水平な地層が連続してみられる屏風ヶ浦は,貴重な露頭です。画像は屏風ヶ浦のほぼ中央で,CMや雑誌の撮影でよく使われる場所です。

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地層が,逆S字型に折れ曲がっています。地層が水をたくさん含み,まだ固まっていないときに海底で地滑りを起こすと,地層が寸断されたり折れ曲がったりしてこの様な構造がつくられることがあります。スランプ構造といいます。逆S字の形から,地層が左から右に滑った事を示しています。

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画像中央左で,地層が折れ曲がっています。もし,地滑りの後に地層が堆積したなら,地滑りによって生じたでこぼこに合わせて上の地層が堆積するはずです。上下の地層がまっすぐ平行に伸びている事から,これらの地層が堆積した後,間に挟まれたこの層がズルズルッと動いたことがわかります。

千葉県の露頭〜銚子市犬吠埼(銚子層群犬吠埼層) [巡検・露頭]

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房総半島は,ほとんどが新生代という新しい時代の地質からできていますが,銚子の犬吠埼付近は千葉県で最も古い中生代の地層が見られます。中生代は恐竜が繁栄していた時代で,銚子でも数十年前まではアンモナイトやトリゴニアなどの化石がとれました。地殻変動を受けて,地層が西側に傾斜しているのがわかります。

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犬吠埼の地層は砂岩からなり,板が何枚も積み重なった様な構造が良く分かります。板(地層)の境目が縞模様に見え,これを層理と呼びます。この地層は波や潮流の影響を受ける浅い海底に堆積したもので,国の天然記念物に指定されています。

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侵食によって,地層の平らな面が露出しています。この面を層理面と呼び,地層が堆積したときの海底だった面です。層理面には,生物が這い回った跡(生痕化石)や波によってつくられた漣痕(リップルマーク)が見られます。

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層理面がでこぼこして見えるのが,漣痕(リップルマーク)です。このことから,水流の影響を受ける海底だった事がわかります。表面が風化しているので良く分かりませんが,画像下半分の層理面では,海水は右手前から左奥(またはその逆)に向かって流れていました。中央の小さい面にもリップルマークが見られ,左手前から右奥(またはその逆)に流れていた事がわかります。

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犬吠埼の地層には,斜交葉理(クロスラミナ)が見られます。以前は,「波濤巡り」といって灯台の下を通る遊歩道がありましたが,崖の崩落が激しくなったため通行止めになっています。

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ラミナをよく見ると,左端が閉じていて,右にいくにしたがって幅が広くなっています。更に右にいくと再びラミナが閉じて,全体がレンズの形をしています。これをハンモック状ラミナと呼び,台風等で海水が激しく波立ち,様々な方向の流れが生じるときにつくられる堆積構造です。このようにしてできた地層を,ストーム堆積物と呼びます。

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ハンモック状ラミナが重なっている様子が見られます。波の影響は浅い範囲に限られるので,ここが浅海だったことがわかります。左上の人物と比較してわかると思いますが,波長(レンズの端から端まで)が4〜5mに達します。海水が激しく動くほど,ラミナの波長は大きくなります。中生代は現在よりも温暖で,台風も大型で強かったといわれています。

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千葉県の露頭〜香取市(下総層群木下層) [巡検・露頭]

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12万〜13万年前の古東京湾の東側には,堤防の様に細長く伸びるバリアー島と呼ばれる島がありました。このバリアー島は,現在の霞ヶ浦と北浦の間から,小見川を通って長柄町へと伸びていました。香取市一ノ分目の露頭は,バリアー島の内湾側に堆積した地層と考えられています。

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露頭の下部では,肌色〜オレンジ色をした泥層と灰色または赤茶色の砂層が,薄く交互に重なっています。砂の層をよく見ると,波打っていることがわかります。この様な堆積構造を漣痕(リップルマーク)と呼び,波打ち際の様に水が往復運動をするところにできるウェーヴリップルと,一方向に流れているところにできるカレントリップルがあります。ここはかつて,河口付近の潮汐の影響を受ける場所で,上げ潮や下げ潮のときにリップルが形成され,上げ潮〜下げ潮の間の流れが淀んだときに泥が堆積しました。

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ラミナが左(東)から右(西)へと,弧を描く様に傾斜しています。下げ潮の時は左から右へと潮が流れ,砂が堆積します。上げ潮のときは,一度堆積した砂を削って逆方向へと潮が流れます。これを繰り返すと,この様なラミナがつくられます。このことから,ここでは西側に海があったことがわかります。

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一ノ分目から東に約8Kmのところにある香取市下飯田の露頭は,一ノ分目の露頭より砂粒が粗く,波や潮流の影響が大きい環境で堆積したことがわかります。ここはバリアー島の外洋側で,現在の九十九里浜の様な海岸であったと考えられます。

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この露頭の下部にも,ウェーヴリップルとその間に挟まれた泥の層が見られます。

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ラミナの傾斜方向が,右傾斜,左傾斜と変わっています。クロスラミナは,水の流れが,めまぐるしく変わった事を示しています。九十九里浜の様な長い海岸線では,岸からやや離れたところで波が砕けているのがわかります。この砕波帯の辺りを外浜(上部外浜)と呼び,波や潮の流れが強いためクロスラミナがつくられます。波打ち際近くは前浜と呼び,海側に緩く傾斜した平行ラミナがつくられます。

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露頭の上部です。画像中央の少し凹んだ部分のラミナをよく見ると,右(西)側に緩く傾斜しています。ここでは海は左(東)側にあったはずなので,海とは逆に傾斜しています。実はこのラミナは,海底ではなく陸に形成されたものなのです。波打ち際から少し陸に入ると,風に運ばれた砂が堆積して,陸側に緩く傾斜した平行ラミナをつくります。この部分を,後浜と呼びます。

ここで紹介した露頭だけでなく,その他,沢山の地層中に見られる様々なラミナやリップルマークなどの形から昔の潮の流れを調べ,三角州やバリアー島の存在が明らかになりました。木下層は古東京湾に堆積した地層ですが,湾の西側にあたる印西市では三角州,東側の香取市ではバリアー島の海岸と,堆積環境は場所によって大きく変わります。

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千葉県の露頭〜印西市吉高(下総層群木下層) [巡検・露頭]

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元印旛高校の南西8Kmほどの印西市吉高付近にも,木下層の貝化石層が見られます。夏に撮った写真なので,かなり草が茂っています。露頭調査は,春か秋がベストです。冬は草も枯れて観察しやすいのですが,日の短さがネックになります。

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ここでは貝層の厚さは1.5〜2m程度ですが,崩落が激しいため下の部分がだいぶ埋まってしまいました。下は,3年前に撮影したほぼ同じ場所の画像です。
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貝化石層は炭酸カルシウムによって固められているため,砂の層より突き出しています。自然による崩落もありますが,ツルハシ等の機材を使って大量に貝化石層を崩し,持ち去った様な後も見られます。学術研究・教育資源としても貴重な露頭なので,必要以上の化石の採取は慎んでいただきたいと思います。

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二枚貝は離弁(殻が分かれている)ですが,よく見ると貝化石層の下部には合弁(殻が合わさっている)のものが見られます。これはナミガイの化石で,やや深い海底に縦に潜って,水管を水中にのばしていました。この地で生息していて,そのまま化石になったもので,この様な化石を現地性と呼びます。また,離弁の二枚貝の様に流されてきて堆積した化石は,異地性と呼びます。

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貝化石層の下は,細粒の砂層です。黒いスジ模様は,砂が流されて堆積したときにつくられた堆積構造で,葉理(ラミナ)と呼びます。このスジ模様が途中で他のスジ模様に切られた様になっている構造を斜交葉理(クロスラミナ)と呼びます。ラミナは,砂が水流によって運ばれ,堆積した事を示します。斑点状に粗い砂粒が詰まっているところは,海底に穴を掘っていた生物の巣穴の跡です。巣穴や足跡など,生物の生活の痕跡を生痕化石と呼びます。

貝化石層より上の地層には,湿地に堆積したシルト(砂と粘土の中間の大きさ)の層が見られます。これらの事からこの露頭では,沖合のやや深い海底〜三角州の斜面〜三角州上面の浅海,と堆積環境が変化した事がわかります。

千葉県の露頭〜木下公園(下総層群木下層) [巡検・露頭]

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元千葉県立印旛高校の入口に木下層の露頭があり,国の天然記念物に指定されています。この露頭から関東の地層研究が始まった,記念碑的な露頭です。
木下層は約12万〜13万年前に堆積した地層で,厚い貝化石層を含むのが特徴です。この露頭では,貝化石層の厚さは8mにもなります。土砂が崩れてだいぶ埋まってしまいましたが,貝化石が密集している層がよく見えます。

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貝化石の多くは二枚貝で,よく見ると殻の内側を下にして(お椀をふせた様に)積もっています。これは,貝が死んだ後,水流に流されて積もった事を示しています。厚い貝化石密集層は波や潮流,洪水で流量が増えたときに貝殻が流され,寄せ集められてつくられました。

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遊歩道の脇に,貝化石が密集した塊が置いてあります。貝殻から地下水に溶け出した炭酸カルシウムが接着剤となり,貝化石や砂粒を結びつけると,この様な塊をつくることがあります。昔はこのような塊を使って,石灯籠などをつくっていました。

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元印旛高校があった台地は,一部が公園として整備されています。入口と反対側の台地の斜面にも,貝化石層が露出しています。

当時の関東平野には,「古東京湾」と呼ばれる広い内湾が広がっていました。木下層は,古東京湾に形成された三角州の堆積物と考えられています。三角州というと,河口に土砂が堆積してできた平らな土地をイメージしますが,その先端は海底まで緩い斜面が続いており,厚い堆積物によってつくられています。
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